似た意味を持つ「咀嚼」(読み方:そしゃく)と「反芻」(読み方:はんすう)の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どっちの言葉を使えば日本語として正しいのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「咀嚼」と「反芻」という言葉は、どちらも生物の消化運動を意味しているという共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使われる傾向があります。
咀嚼と反芻の違い
咀嚼と反芻の意味の違い
咀嚼と反芻の違いを分かりやすく言うと、咀嚼とは口で食べ物を噛むこと、反芻とは咀嚼して一度飲み込んだものを再び口に戻すことを意味しているという違いです。
咀嚼と反芻はどちらもひらがな表記が一般的
日常語としては、「咀嚼」は「物事を整理して理解すること」、「反芻」は「知識などを頭の中で繰り返して理解し定着すること」を意味しています。ちなみに咀嚼はどちらの漢字も常用外で、反芻は芻が常用外なので、普通はひらがな表記されます。
以下では生物学的な意味での二つの言葉を解説します。
咀嚼と反芻の使い分け方
一つ目の「咀嚼」は「食べ物を口の中で噛み砕くこと」です。ちなみに食べ物を飲み下して胃に入れることは「嚥下」(読み方:えんげ)と言います。食事という行為は咀嚼と嚥下と消化から成るものだと言うことが出来ます。
咀嚼は食べ物が食道を通りやすくするために行われます。食べ物は咀嚼によって小さくなり、また唾液と混じって食道を通りやすくなります。咀嚼にはそれ以外にも、各消化器官の消化液の分泌を促し、口の中の自浄を行うという役割もあります。
単に食物を摂取するだけでなく、咀嚼には様々な健康効果があることが実証されてきています。その代表的なものにはガン予防、ダイエット効果、リラックス効果などがあります。
二つ目の「反芻」は「一度飲み込んだものを逆流させ口に戻し、再び咀嚼すること」を意味する言葉です。
反芻を行うのは主に牛、ヤギ、羊、キリン、鹿、ラクダなどで、反芻を行う動物は「反芻動物」と呼ばれます。反芻動物は基本的には偶蹄目、ひづめを持った動物です。
人間は胃を一つしか持たず、生物学では「単胃動物」と呼ばれるのに対して、反芻動物の胃は、第一胃から第四胃までの四つの部分に分かれています。人間の胃に相当する働きを持っているのは第四胃で、特に第一胃と第二胃が反芻に大きく関わっています。
反芻動物の主食は草です。反芻動物は摂取した草をまずは第一胃に飲み下します。第一胃にはたくさんの微生物がいて、それが草を分解します。草は半分ほど消化されて、「食い戻し」と呼ばれる固形物になります。
第二胃は食物を喉に戻すためのポンプの役割を持っています。「食い戻し」を再び口へ送るのが第二胃の役割です。例えば牛は、口の中に戻された食物をゆっくりと時には一時間近くもかけて咀嚼し直します。牛が絶えず口を動かしているのはこのためです。
反芻して飲み下された食物は、第三胃でさらにすりつぶされ、第四胃で人間の胃と同じように消化されます。
咀嚼の意味
咀嚼とは
咀嚼とは、食べ物を口で噛み砕くことを意味しています。
咀嚼は常用外漢字なので公用文で使えない
咀嚼の咀の字は「味わう、理解する」という意味で、嚼の字は「かむ」という意味ですが、どちらも常用外漢字なので、新聞などでは一般にひらがな表記されます。
表現方法は「咀嚼する」「咀嚼が弱い」「咀嚼ができない」
「咀嚼する」「咀嚼が弱い」「咀嚼ができない」などが、咀嚼を使った一般的な言い回しです。
咀嚼の使い方
咀嚼は「情報や物事を自分なりに整理して理解する」という意味で使われることもあります。「簡単に言うこと」を「かみ砕いて言う」ともいいます。こうした使い方は、生物学的な意味での「食べ物を噛み砕く」という意味を比喩的に転用したものです。
食べ物を飲み込むこと、つまり食道を通すことを「嚥下」(読み方:えんげ)といいますが、咀嚼は食べ物を細かくし、また唾液と合わせることによって嚥下をしやすくする働きを持っています。
ですがそれだけではなく、咀嚼には健康を促進する機能があるとする研究結果も示されています。具体的には虫歯予防やリラックスやダイエット効果といったものから、ガンや痴呆症の予防などの重大なものまで、咀嚼には様々な効果があると言われています。
咀嚼の類語
咀嚼の類語・類義語としては、体内で食べ物を吸収していることを意味する「消化」、体内に取り入れて自分のものにすることを意味する「吸収」などがあります。
反芻の意味
反芻とは
反芻とは、一度飲み下して胃に入れた食べ物を再び口に戻して咀嚼することを意味しています。
反芻の反の字は「繰り返す、戻る」という意味で、芻の字は「干し草、わら」という意味を持ちます。反芻とは文字通りには「食べた草が再び口に戻る」ことを意味する言葉です。
表現方法は「言葉を反芻する」「頭の中で反芻する」「反芻して覚える」
「言葉を反芻する」「頭の中で反芻する」「反芻して覚える」などが、反芻を使った一般的な言い回しです。
「反芻動物」の意味
反芻を行う動物は「反芻動物」と呼ばれます。主に牛、羊、ヤギ、キリン、ラクダなどの動物が反芻をします。反芻をする動物は基本的にはひづめをもった動物、つまり「偶蹄目」(読み方:ぐうていもく)に属しています。
また人間には胃が一つしかありませんが、反芻動物には四つあります。生物学上、一つしか胃を持たない動物は「単胃動物」、胃を複数持つ動物は「多胃動物」と呼ばれます。
反芻動物の胃は第一胃から第四胃にまで分けられていて、特に第一と第二が反芻にとって重要な役割を果たしています。人間の胃に相当するのは第四胃で、第三胃は反芻された食物を第四胃へ送る、いわば繋ぎの役割を持っています。
第一胃には、食物繊維を分解するたくさんの微生物がそこに存在しています。人間の胃はほとんど草を分解できませんが、反芻動物は第一胃に存在する微生物のおかげで草をほとんど分解することが出来ます。
第一胃では食物は固形と液体に分けられます。そして固形になったものは第二胃に運ばれます。第二胃はポンプのように収縮し、固形分を食道を逆流させ再び口へと戻します。そしてその固形分をさらにゆっくりと咀嚼し、再び飲み下します。
特に牛などは、ゆっくりと一時間近くかけて咀嚼しなおすこともあります。牛が常に口を動かしているのはこのためです。
反芻の類語
反芻の類語・類義語としては、同じことを何度も繰り返すことを意味する「反復」、ひっくりかえることを意味する「反転」、刺激に対して応答ことを意味する「反応」などがあります。
咀嚼の例文
この言葉がよく使われる場面としては、食べ物を噛むことや、知識を自分なりに整理して覚えることを表現したい時などが挙げられます。
咀嚼は噛むの学問的な表現ですが、特に健康に関する話題で使われることもあり、日常語として定着していると考えて差支えありません。
咀嚼は「物事を整理して理解する」という意味で使われることもあります。複雑な物事を整理して簡単に言うことを「かみ砕く」ということも覚えておいてください。
反芻の例文
この言葉がよく使われる場面としては、食べた物が逆流することや、何度も頭の中で同じことを考えることを表現したい時などが挙げられます。
例文3の「反芻症」というのは摂食障害の一種で、食べた物を吐き戻してしまう症状のことです。胃の機能に問題がある場合や、精神的な問題である場合など、原因は様々です。
例文5の「反芻思考」はメンタルヘルスや臨床心理学などで使われる言葉です。簡単に言うと、「くよくよする」「うだうだといつまでも考える」などが反芻思考に当てはまるもので、うつの原因になると考えられています。