似た意味を持つ「隠匿」(読み方:いんとく)と「隠蔽」(読み方:いんぺい)の違いと使い方を分かりやすく解説しているページです。
どっちの言葉を使えば日本語として正しいのか、このページの使い方を参考にしてみて下さい。
「隠匿」と「隠蔽」という言葉は、どちらも物事を不正に隠すことを意味するという共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使用される傾向があります。
隠匿と隠蔽の違い
隠匿と隠蔽の意味の違い
隠匿と隠蔽の違いを分かりやすく言うと、隠匿というのは、誰かの所有物を隠すことを意味していて、隠蔽というのは、悪事を隠すことを意味するという違いです。
隠匿と隠蔽はともに「不正に隠す」ことで、どちらも「悪いことをする」という意味合いを持ちます。「悪いことをする」という意味合いは、「隠す」には必ずしもありません。どういうことか少し考えてみることで、隠匿と隠蔽の意味が理解しやすくなります。
隠匿と隠蔽の元になっている「隠す」という行動は、物がどこにあるのか他人には分からないようにすることです。隠すというのも、日常的には「悪いこと」という意味合いで使われる傾向がありますが、言葉自体には「悪いこと」の意味合いはありません。
例えばプライバシーは「隠し事」の典型例ですが、それは守られるべきだというのが一般的な社会通念です。「隠しておいた方がいいこともある」のが世の常です。
しかし、隠すべきではないことを隠すことは悪いことです。そういう「隠す」に対して、隠匿や隠蔽が使われますが、二つの言葉は「何を」隠すかという対象が異なると考えると、違いが分かりやすくなります。
隠匿と隠蔽の使い分け方
隠匿は物を不正に隠すことを意味する言葉で、法律の条文で「隠す」を意味する時に使われます。例えば「毀棄及び隠匿の罪」(読み方:ききおよびいんとくのつみ)は、ごく簡単に言うと、他人の物を壊したり隠したりすることはダメということです。
次に、隠蔽というのは、具体的な物ではなく、悪事や知られると都合の悪いことを隠すことを意味します。例えば、留守番中に家具を壊した子供が壊したことを母親に隠すことは、典型的な「隠蔽」です。またそのために「隠蔽工作」を図ることもあります。
隠してはいけない「物」を隠すのが「隠匿」で、白状しないといけない「事」を隠すのが「隠蔽」とすると、二つの意味の違いが分かりやすくなります。
隠匿の意味
隠匿とは
隠匿とは、隠してはいけない物を隠すことを意味しています。
表現方法は「隠匿を積む」「隠匿する」「隠匿罪」
「隠匿を積む」「隠匿する」「隠匿罪」などが、隠匿を使った一般的な言い回しです。
隠匿の使い方
隠匿の意味である「隠してはいけない物」というのは、悪事ではなく、「誰かの所有物」のことだと考えて下さい。
例えば、意地悪で物を隠すことは「隠匿」です。また税金逃れのために資産を隠すことも「隠匿」です。陰徳は「不正に隠すこと」です。なので、例えば男の子が友達を家に呼ぶ時に少女漫画のコレクションを隠すことは、隠匿という言葉は当てはまりません。
ただし日常的に使われることはあまりなく、法律の条文などの形式性の高い文章で使われる傾向がある言葉です。
隠匿の語源
隠匿の隠の字も匿の字も、ともに「かくす」という意味がありますが、匿という漢字にはさらに「よこしま」という意味もあることを知っておくと、この言葉が「悪いこと」を意味することが理解しやすくなります。
なお、同音異義語として「陰徳」という言葉があります。「人に知られずに行うひそかな善行」を意味する言葉です。「陰徳を積む」や「陰徳あれば必ず報徳あり」というような言葉があります。
隠匿の類語
隠匿の類語・類義語としては、不祥事などを揉み消すことを意味する「もみ消し」、揉め事などを解決することを意味する「火消し」などがあります。
隠匿の匿の字を使った別の言葉としては、名前を伏せることを意味する「匿名」、秘密にすることを意味する「秘匿」、逃走犯をかくまうことなどを意味する「蔵匿」などがあります。
隠蔽の意味
隠蔽とは
隠蔽とは、知られると都合の悪い悪事などを隠すことを意味しています。何か具体的な物を隠すというよりは、悪事という行動や、悪事をなしたという事実を隠すことを意味する言葉です。
表現方法は「隠蔽する」「隠蔽を図る」「隠蔽工作」
「隠蔽する」「隠蔽を図る」「隠蔽工作」などが、隠蔽を使った一般的な言い回しです。
隠蔽の使い方
例えば、友達の家に遊びに行って、物を壊してしまったとします。正直に言うべきところですが、それを隠しておくことは「隠蔽」です。また、自分の悪事を隠しておくためになにか手を打ったならば、それは「隠蔽工作」です。
隠蔽の語源
隠蔽の隠の字も蔽の字も、ともに「かくす」ことを意味する言葉ですが、蔽という漢字にはさらに「おおう」という意味もあることを知っておくと、この言葉が、「自分の行いに対して他人の目をさえぎる」という意味を持っていることが理解しやすくなります。
隠蔽の対義語
隠蔽の対義語・反対語としては、隠し事をあばくことを意味する「暴露」、暴露の俗語的表現である「素っ破抜く」、矛盾や欠点など隠れた点を明らかにすることを「剔抉」(読み方:てっけつ)、秘密などが外部に流出することを意味する「漏洩」などがあります。
隠蔽の類語
隠蔽に関連する類語・類義語として「捏造・改ざん・剽窃」という言葉を覚えておくと、隠蔽という言葉の意味が分かりやすくなります。捏造・改ざん・剽窃は全て「ごまかす、嘘をつく」ことを意味する言葉です。
「捏造」(読み方:ねつぞう)というのは、ありもしないものをでっち上げることです。例えば夏休みの宿題の日記を、夏休みの最後の日にまとめて書くというのは捏造になります。
次に、「改ざん」というのは、都合のいいように書き換えることです。例えば日記に、さも家事を全部手伝ったように書いておいて、実はごく僅かしかやっていなかった場合、それは「改ざん」と言うことが出来ます。
最後に「剽窃」(読み方:ひょうせつ)というのは、例えばお兄ちゃんの去年の日記の内容を自分の日記に書き写すことで、俗にいう「パクリ」のことです。
これら全ては「悪事」です。やったことを問い詰められた時に首を横に振ってごまかすことが「隠蔽」です。
隠蔽の蔽の字を使った別の言葉としては、物に覆いをかけて姿を見せなくしたり、光から保護することを意味する「遮蔽」、敷地面積に対する建物の面積の割合を意味する「建蔽率」などがあります。
隠匿の例文
この言葉がよく使われる場面としては、隠してはいけない物を隠すことを表現したい時などが挙げられます。例文1の資産は公表する必要はありませんが、税務署にはきちんと申告しなければなりません。
例文3の「信書隠匿罪」というのは、「毀棄及び隠匿の罪」のうち、信書に関するものですが、罪名としては俗称です。
隠匿という言葉は一般的に使われる言葉ではありません。日常的には「隠す」や「秘匿」を使えば十分ですし、「秘匿」であれば、悪いことではなく隠す権利があるという意味合いになります。「彼女は家庭のことを周囲には秘匿している」などのように使われます。
隠蔽の例文
この言葉がよく使われる場面としては、明るみに出ると都合の悪い悪事や事実など隠すことを表現したい時などが挙げられます。例文1の「隠蔽体質」、例文2の「隠蔽工作」という言葉は、覚えておいて損はありません。
隠匿はあまり使われる言葉ではありませんが、隠蔽という言葉は日常的に使われる言葉です。ただし、やや形式ばった言葉なので、普通は「隠す」の方が据わりはいいです。例文3のような隠蔽の使い方は、滑稽さを増すためにあえて隠蔽という言葉を使っています。