同じ「ひとえに」という読み方の「偏に」と「一重に」の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どっちの言葉を使えば日本語として正しいのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「偏に」と「一重に」という言葉は同音の言葉ですが、それぞれの漢字によって使い方には少し違いがあります。
「偏に」と「一重に」の違い
「偏に」と「一重に」の意味の違い
「偏に」と「一重に」の違いを分かりやすく言うと、「偏に」とは原因などがそれに尽きることを表し、「一重に」とは重ならないことを表すという違いです。
「偏に」と「一重に」の使い方の違い
一つ目の「偏に」を使った分かりやすい例としては、「彼の成功は偏に奥さんの支えによるものだ」「偏に皆様のご愛顧の賜物と深く感謝いたします」「偏に仏に帰依すれば必ず救われる」「平和を求め偏に訴え続けている」などがあります。
二つ目の「一重に」を使った分かりやすい例としては、「壁一重に隔てた部屋で隠れていた」「封筒を二重から一重に仕様変更しました」「今朝、起きたら瞼が一重になっていた」「二重まぶたから一重にする方法はありますか」などがあります。
「偏に」と「一重に」の使い分け方
「偏に」と「一重に」という言葉は、どちらも「ひとえに」と読みますが、意味は大きく異なります。「ひとえに皆様方のお陰です」などのフレーズで使われている「ひとえに」は、漢字で「偏に」と書きます。誤って「一重に」と表記されることがあるので、注意が必要です。
「偏に」とは、「偏に訴え続けている」のように使われ、もっぱらその行為に徹するさまを表します。また、「偏に皆様のご愛顧の賜物と深く感謝いたします」のように使われ、原因や条件などがそれに尽きることを表わす言葉です。
「一重に」とは、重ならずにそのものだけであることを表す「一重」に、格助詞の「に」で構成されている言葉です。「一重に」は重なっていないこと意味する言葉ですが、「ひとえに」と読むため「偏に」と混同される傾向があります。
「偏に」と「一重に」は意味が異なる同音異義語のため、互いに置き換えて使うことは出来ないことを覚えておきましょう。
「偏に」と「一重に」の英語表記の違い
「偏に」を英語にすると「earnestly」「solely」「exclusively」となり、例えば上記の「偏に支えによるものだ」を英語にすると「be due entirely to one’s support」となります。
一方、「一重に」を英語にすると「single-layered」「single」「onefold」となり、例えば上記の「壁一重に隔てる」を英語にすると「separated by a single wall」となります。
「偏に」の意味
「偏に」とは
「偏に」とは、ただそのことだけをするさまを意味しています。
その他にも、「原因・理由・条件などが、それに尽きるさま」の意味も持っています。
「偏に」の使い方
「偏に感謝いたしております」「偏に文章を書くことが好きです」「偏に似た漢字を集めて一覧にしています」などの文中で使われている偏には、「ただそのことだけをするさま」の意味で使われています。
一方、「これも偏に皆様のお力添えのおかげです」「偏にお客様のおかげと心から感謝申し上げます」「遍と書けなかったのは偏にしんにょうを忘れてたからです」「失敗はは偏に私の力不足です」などの文中で使われている偏には、「原因や条件が、それに尽きるさま」の意味で使われています。
「偏に」とは、上記の例文にあるように二つの意味があり、それぞれの意味で使われているため文脈により意味を捉える必要があります。「偏に」の語源は、重なりがなく唯一のものであることを表す「一重」に格助詞の「に」が付いたもので、「ひたすらに」「一途に」などの意味を持ちます。
「偏に」は、日常会話ではあまり使われず、格式ばったスピーチや文章の中で用いられています。かしこまった式典やイベントなどで、謝意を伝える際などに出てくる表現です。また、文章で用いる場合には漢字よりも平仮名で「ひとえに」と表記されることが一般的です。
「偏」という漢字は、片寄ることや中正でないことを表します。また、漢字を構成する左側の部分を指し、この場合は「へん」と読みます。ちなみに、偏に対して漢字の右側の部分を「つくり」と言います。
「偏に風の前の塵に同じ」の意味
「偏に」という言葉を用いた有名な一文には「偏に風の前の塵に同じ」があります。平家物語の冒頭文の一節であり、「偏に」は「それよりほかにないと限定するさま」を意味し、前の文に続いて、勢い盛んな者も結局は滅び去り、風に吹き飛ばされる塵と同じようであることを表現しています。
「偏に」の類語
「偏に」の類語・類義語としては、それより他にないと限定するさまを意味する「只々」、他はさしおいて一つの事に集中するさまを意味する「専ら」、もっぱらそれだけを行うさまを意味する「只管」、他ではなくもっぱらそれによるさまを意味する「一に」などがあります。
「一重に」の意味
「一重に」とは
「一重に」とは、そのものだけであること、重ならないであることを意味しています。
「一重に」の使い方
「一重に」を使った分かりやすい例としては、「八重の花が一重になることはありますか」「生地を一重に仕立てたガウンです」「障子を一重に隔てた部屋で過ごす」「親切とお節介は紙一重に感じる」などがあります。
その他にも、「瞼が一重になったり二重になったりする」「一重になった瞼を二重に戻したい」「一重に人権はないと発言して炎上した」「一重に似合う髪型にして下さい」「瞼を一重にする方法はありますか」などがあります。
「一重に」とは、名詞である「一重」と格助詞の「に」を組み合わせたものです。「一重」は重ならないであること、花びらが重なっていない単弁であることを意味します。また、上まぶたに横ひだがなくて一重である「一重まぶた」の略語として使われています。
「一重に」は「偏に」の語源となっていますが、「偏に」が持つ「もっぱらその行為に徹するさま」や「もっぱらその状態であるさま」の意味は持っていません。この意味での「ひとえに」を漢字変換する際に、間違って「一重に」としないように注意しましょう。
「一重二菜」は誤字
「一重」を用いた誤った言い回しには「一重二菜」があります。正しくは「一汁二菜」であり、一つの汁物と主菜と副菜をそれぞれ一品ずつ組み合わせる昔ながらの和食スタイルを表します。
「一重に」の対義語
「一重に」の対義語・反対語としては、いくつかの重なりや何枚も重なっていることを意味する「幾重」、いくつも重なることを意味する「多重」、「二つ重なっていること」を意味する「二重」などがあります。
「一重に」の類語
「一重に」の類語・類義語としては、位置や日時などを重ならないように動かすことを意味する「ずらす」、互いに重ならないように立てることを意味する「立て違う」、花弁が一重であるものを意味する「単弁」などがあります。
「偏に」の例文
この言葉がよく使われる場面としては、ただそのことだけをするさま、理由や条件などがそれに尽きるさまを表現したい時などが挙げられます。
例文1や例文2にある「偏に」は、ただそのことだけをするさまの意味で使われています。「いちずに」「ひたすら」と言い換えることが出来ます。例文3から例文5にある「偏に」は、理由や原因などがそれに尽きることを表わし、「もっぱら」と言い換えることが出来ます。
「一重に」の例文
この言葉がよく使われる場面としては、そのものだけであること、重ならないであることを表現したい時などが挙げられます。
「一重に」は「一重」に格助詞の「に」で構成された言葉です。例文1や例文2にある「一重」は「一重まぶた」の略語です。例文3にある「紙一重」とは、紙一枚の厚さほどのわずかな違いを表します。例文4や例文5にある一重は、重なっておらず一枚であることを意味します。
「偏に」と「一重に」という言葉は、どちらも「ひとえに」と読む同音異義語です。どちらを使うか迷った場合、その行為に徹するさまや理由などがそれに尽きるさまを表現したい時は「偏に」を、重ならないことを表現したい時は「一重に」を使うようにしましょう。