似た意味を持つ「襟を正す」(読み方:えりをただす)と「威儀を正す」(読み方:いぎをただす)の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どっちの言葉を使えば日本語として正しいのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「襟を正す」と「威儀を正す」という言葉は、どちらも自己の乱れた衣服や姿勢を整えることを意味しているという共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使われる傾向があります。
「襟を正す」と「威儀を正す」の違い
「襟を正す」と「威儀を正す」の意味の違い
「襟を正す」と「威儀を正す」の違いを分かりやすく言うと、「襟を正す」とは内面と外面のどちらに対しても使える、「威儀を正す」とは外面に対してしか使えないという違いです。
「襟を正す」と「威儀を正す」の使い方の違い
一つ目の「襟を正す」を使った分かりやすい例としては、「襟を正して話を聞いています」「取引先の人と会う前にトイレで襟を正す」「先生に注意されたことは襟を正す良い機会になりました」「政治家は襟を正す必要がある」などがあります。
二つ目の「威儀を正す」を使った分かりやすい例としては、「威儀を正して授賞式に参列する」「待合室に入ると威儀を正した紳士が対応してくれました」「皇室に入る前に威儀を正す」「彼女は威儀を正して控えていた」などがあります。
「襟を正す」と「威儀を正す」の使い分け方
「襟を正す」と「威儀を正す」はどちらも自己の乱れた衣服や姿勢を整えることという同じ意味を持つ言葉ですが、使い方に少し違いがあるので注意が必要です。
「襟を正す」は自己の乱れた衣服や姿勢を整えることの意味で外面に対してだけなく、それまでの態度を改めて気持ちを引き締めることの意味で内面に対しても使える言葉になります。
一方、「威厳を正す」は自己の乱れた衣服や姿勢を整えることの意味で、外面に対してしか使えないというのが違いです。
「襟を正す」と「威儀を正す」の英語表記の違い
「襟を正す」を英語にすると「straighten up」「shape up」となり、例えば上記の「政治家は襟を正す必要がある」を英語にすると「It’s about time for the politician to shape up」となります。
一方、「威儀を正す」を英語にすると「dignified manner」となり、例えば上記の「彼女は威儀を正して控えていた」を英語にすると「I found her seated in a dignified manner」となります。
「襟を正す」の意味
「襟を正す」とは
「襟を正す」とは、それまでの態度を改めて気持ちを引き締めることを意味しています。その他にも、自己の乱れた衣服や姿勢を整えることの意味も持っています。
「襟を正す」の使い方
「上司に注意されたことは襟を正す良い機会になりました」「クレームに対して襟を正して真摯に対応する」などの文中で使われている「襟を正す」は、「それまでの態度を改めて気持ちを引き締めること」の意味で使われています。
一方、「もうすぐピアノの発表会で自分の番が来るので襟を正す」「もうすぐ彼女のお父さんと会うので襟を正す」などの文中で使われている「襟を正す」は、「自己の乱れた衣服や姿勢を整えること」の意味で使われています。
「襟を正す」は二つの意味を持つ言葉ですが、どちらの意味でも使われています。一つ目のそれまでの態度を改めて気持ちを引き締めることの意味は内面に対して使い、二つ目の自己の乱れた衣服や姿勢を整えることの意味は外面に対して使うのが一般的です。
「襟を正す」の由来
「襟を正す」の由来は中国の史記にある「宋忠賈誼、瞿然而悟獵纓正襟危坐」の中の「獵纓正襟危坐」と言われています。
漢の宋忠と賈誼が有名な占い師である司馬季主と会ったとき、司馬季主が占いだけに留まらず道理にも通じた人物であることに気付いて「纓を猟り襟を正して危坐」(読み方:えいをとりえりをただしてきざ)しました。
これを日本語に訳すと、宋忠と賈誼は冠の紐を整えて襟をきちんと正して姿勢で座り直したという意味になり、これが転じてそれまでの態度を改めて気持ちを引き締めることの意味で使われるようになりました。
また、「襟を正す」の由来はもう一つあり、前赤壁賦(読み方:ぜんせきへきのふ)と言われています。
前赤壁賦とは、中国の北宋(読み方:ほくそう)の蘇軾(読み方:そしょく)が作った友人と赤壁の下に船と浮かべて清遊した時に詠んだとされる韻文のことです。
前赤壁賦の韻文には蘇子愀然、正襟危坐、而問客曰、何為其然也があり、これを日本語に訳すと、客人があまりにも悲しい笛の音を響かせていたので、蘇軾が心配して事情を訪ねたというお話です。
この蘇軾が心配して真剣に話を聞こうとした態度が転じて、自己の乱れた衣服や姿勢を整えることの意味で使われるようになりました。
「襟を正す」は気持ちを引き締めて物事を取り組む場合だけでなく、「今後は襟を正して取り組む所存であります」のように、謝罪としても使うことができます。
「襟を正す」の類語
「襟を正す」の類語・類義語としては、自分のよくなかった点を認めて改めようと考えることを意味する「反省する」、気持ちを引き締めて確実にすることを意味する「しっかりする」、よく整っていて乱れたところがないようにすることを意味する「きちんとする」などがあります。
「威儀を正す」の意味
「威儀を正す」とは
「威儀を正す」とは、身なりを整えて作法に適った立ち居振舞いをすることを意味しています。
「威儀を正す」の使い方
「威儀を正す」を使った分かりやすい例としては、「威儀を正して結婚式に参加する」「この祝賀会に参加するには威儀を正して参列する必要があります」「彼は威儀を正すために鬘を着用しています」「威儀を正して王様が居るところへ向かう」などがあります。
「威儀を正す」は身なりを整えて作法に適った立ち居振舞いをすることを意味しており、外面に対してのみ使う言葉になります。
「威儀を正す」の由来
「威儀を正す」の由来は仏教用語です。「威儀を正す」の威儀は仏教用語で規律にかなった起居動作ことを意味しており、また、その作法や規律のことを指しています。これが転じて、身なりを整えて作法に適った立ち居振舞いをすることを「威儀を正す」というようになりました。
「威儀を正す」は冠婚葬祭などにおいてよく使われる言葉です。
「威儀を正す」の類語
「威儀を正す」の類語・類義語としては、きちんとした姿勢に座りなおすことを意味する「居住まいを正す」(読み方:いずまいただす)、人に不快感を与えないように言動や服装を整えることを意味する「身だしなみを整える」などがあります。
「襟を正す」の例文
この言葉がよく使われる場面としては、それまでの態度を改めて気持ちを引き締めることを表現したい時などが挙げられます。その他にも、自己の乱れた衣服や姿勢を整えることを表現したい時にも使います。
例文1から例文3の「襟を正す」は自己の乱れた衣服や姿勢を整えること、例文4と例文5の「襟を正す」は自己の乱れた衣服や姿勢を整えることの意味で使っています。
「威儀を正す」の例文
この言葉がよく使われる場面としては、身なりを整えて作法に適った立ち居振舞いをすることを表現したい時などが挙げられます。
上記の例文のように、「威儀を正す」は冠婚葬祭などでよく使われている言葉です。
「襟を正す」と「威儀を正す」はどちらも自己の乱れた衣服や姿勢を整えることを表します。どちらの言葉を使うか迷った場合、内面と外面どちらに対しても使えるのが「襟を正す」、外面に対してしか使えないのが「威儀を正す」と覚えておきましょう。