似た意味を持つ「市井」(読み方:しせい)と「巷」(読み方:ちまた)の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どっちの言葉を使えば日本語として正しいのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「市井」と「巷」という言葉は、どちらも「人々が生活している所」を意味しているという共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使われる傾向があります。
市井と巷の違い
市井と巷の意味の違い
市井と巷の違いを分かりやすく言うと、市井とは書き言葉で使われ、巷とは話し言葉でも書き言葉でも使われるという違いです。
市井と巷の使い方の違い
一つ目の市井を使った分かりやすい例としては、「市井の人々の声を大事にする」「市井の片隅に生まれ育ちました」「市井で感染症が流行する」「市井の多くの飲食店は休業している」「市井の暮らしを描いた小説です」などがあります。
二つ目の巷を使った分かりやすい例としては、「巷で人気のエスニック料理です」「身近な巷の噺がテレビで取り上げる」「彼は巷で立ち止まったあと左手を進んだ」「中東は戦火の巷と化した」などがあります。
市井と巷の使い分け方
市井と巷という言葉は、どちらも「人々が生活している所である町中」という共通する意味を持っていますが、使い方には少し違いがあります。
市井は日常会話ではあまり使われず、主として文章を書くときに使われる文章語です。聞き馴染みのない言葉ですが、文学作品の中で多用されている言葉です。一方、巷は日常会話でも文章語でも用いられ、汎用性のある言葉です。
また、巷という言葉には「分かれ道」や「物事が盛んに行われている所」という意味もあります。これらの意味は市井には無いため、「巷で立ち止まったあと左手を進んだ」「戦火の巷と化した」の巷を市井に置き換えることは出来ません。
これらが、市井と巷という言葉の違いになります。
市井と巷の英語表記の違い
市井も巷も英語にすると「street」「town」となり、例えば上記の「市井の人」を英語にすると「a person on the street」となります。
市井の意味
市井とは
市井とは、人が多く集まり住む所を意味しています。
市井の読み方
市井の読み方は「しせい」です。誤って市井を「しい」と読まないように注意しましょう。また、市井は人の名前の苗字にもなっていますが、この場合は「いちい」と読むことが一般的です。
市井の使い方
市井を使った分かりやすい例としては、「市長は市井の目線を貫くことを約束した」「市井の人々にインタビューする」「市井で人気の英語塾です」「なりきりコスプレが市井で流行っています」などがあります。
その他にも、「貴族から市井の臣に成り下がる」「市井の徒が風紀を乱す」「市井はいろいろな苗字で溢れています」「一介の市井人に言えることはありません」「戦争では多くの市井の人々が犠牲となった」などがあります。
市井の語源
市井の語源は、昔の中国では井戸のある所に人が集まって、そこに市が成が立ったことにあります。このことから、市井とは、人が多く集まり住む所、そこに住む人を意味する言葉となりました。
「市井の臣」「市井の徒」の意味
市井という言葉は、日常会話ではほとんど使われず、文学作品などで用いられる文章語です。「市井の臣」「市井の徒」などの表現で用いられ、「市井の臣」は市中に住む人である庶民を表し、「市井の徒」は市中に住む素行の悪いならず者を意味します。
市井の対義語
市井の対義語・反対語としては、都会から遠く離れた土地を意味する「僻地」、中央から遠く離れた地帯を意味する「辺境」、都会から離れていて不便なことを意味する「辺鄙」などがあります。
市井の類語
市井の類語・類義語としては、住宅や商店が多く人口が密集している所を意味する「町」、人家や商店が密集したにぎやかな土地を意味する「市街地」、街や市街を意味する「タウン」などがあります。
巷の意味
巷とは
巷とは、大勢の人々が生活している所、町中を意味しています。
その他にも、「道の分かれる所、物事の分かれ目」「ある物事が盛んに行われている所」の意味も持っています。
巷の読み方
巷は「ちまた」と読み、他にも「岐」や「衢」と書き表すことができますが、「巷」と表記されることが一般的です。巷という漢字を用いた熟語である「巷間」も、人々が住む地域や世間を意味します。
表現方法は「巷で人気」「巷で有名」「巷の噂」
「巷で人気」「巷で有名」「巷の噂」などが、巷を使った一般的な言い回しです。
巷の使い方
「巷で人気のファッションです」「巷の噺ではマスクが品切れだそうです」「これが巷で話題のエントリーシートの書き方です」「巷には英語の教材が溢れています」などの文中で使われている巷は、「大勢の人々が生活している所」の意味で使われています。
一方、「途中、巷がありますので矢印の方に進んで下さい」「勝敗の巷は集中力にあります」などの文中で使われている巷は「分かれ道、分かれ目」の意味で、「たびたび戦火の巷となった辺境地です」の文中で使われている巷は「物事が盛んに行われている所」の意味で使われています。
巷という言葉は、上記の例文にあるように複数の意味を持ちますが、一般的には大勢の人々が生活している町中、あるいは世の中の意味で用いられています。「巷で人気」「巷のうわさ」などと表現し、漠然と世間における状況を表します。
巷を用いた有名な詩の一節に「巷に雨の降るごとく わが心にも涙降る」があります。フランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの作品であり、1874年に出版された「言葉なきロマンス」の中に収められています。
巷の対義語
巷の対義語・反対語としては、都会から離れた土地を意味する「辺地」、都市や海岸から遠く離れた地域を意味する「奥地」などがあります。
巷の類語
巷の類語・類義語としては、人が集まり生活している場を意味する「世間」、人々が生活している現実の世の中を意味する「社会」、まちのなかや世間を意味する「巷間」、道が分かれる所や分かれ道を意味する「岐路」などがあります。
市井の例文
この言葉がよく使われる場面としては、人が多く集まり住む所、そこに住む人を表現したい時などが挙げられます。
例文1にある「市井の生まれ」とは、町中の生まれである庶民を意味します。例文3に関して、市井を「しい」と誤読する人がいますが、「市井の人」の正しい読み方は「しせいのひと」です。
巷の例文
この言葉がよく使われる場面としては、人が大勢あつまっている賑やかな通り、物事の分かれ目や道の分かれるところを表現したい時などが挙げられます。
例文1から例文4の文中にある巷は、人が大勢あつまっている賑やかな通りの意味で使われています。例文5の文中にある巷は、物事の分かれ目の意味で使われています。
市井と巷という言葉は、どちらも人が多く集まり住む所を表します。どちらの言葉を使うか迷った場合、文語的表現をしたい時は「市井」を、口語的表現をしたい時は「巷」を使うようにしましょう。