似た意味を持つ「自然」(読み方:しぜん)と「天然」(読み方:てんねん)の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どっちの言葉を使えば日本語として正しいのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「自然」と「天然」という言葉は、どちらも人為的、作為的ではないことを意味するという共通点がありますが、本来の意味は少し違います。
自然と天然の違い
自然と天然の意味の違い
自然と天然の違いを分かりやすく言うと、自然とは人の手が加えられていない物のことで、天然とは人の手が加えられていない性質のことを意味しているという違いです。
自然と天然の使い分け方
人が手を加えることなくありのままに存在することを意味する「天然自然」(読み方:てんねんしぜん)という言葉があるように、自然と天然という言葉はほぼ同一の意味を持ちます。しかし、使われ方がそれぞれ異なります。
一つ目の「自然」という言葉は「自ずから」(読み方:おのずから)という字を含むように、「ありのまま、勝手に」という意味合いを持つ言葉です。例えば自然界に存在する動植物などは、人間の手の及ばないところで、ありのままに存在しています。
また「自然とあくびが出た」や「自然に育つ」という言葉があることから分かるように、「自然」という言葉には「勝手に」という意味があります。ここでの勝手はワガママという意味ではなく、このような状況を日本語では「おのずから」と言います。
「時間が経てばおのずと分かるようになる」の「おのずと」も「おのずから」です。
「自然」という言葉は、自然界という言葉のように「対象の領域」を指し示すこともあれば、「自然に涙が出た」のように「意図や作為がなく、ありのままの状態」を表現することもある言葉です。
二つ目の「天然」という言葉は「天」という字を含むことから分かるように、「天によって作られて存在している」という造りを持つ言葉です。しかし、科学的世界観の中に生きている私達にとっては別の説明が必要です。
自然は対象の領域や動作の状態を表現する言葉ですが、「天然」という言葉はそのような使い方をすることは出来ません。代わりに、例えば「天然記念物」や「天然温泉」という言葉に現れているように「物の持つ性質」を表現する言葉です。
どういう性質かと言えば、「自然のものである」という性質のことです。そのため天然は自然という言葉を前提にして初めて成り立っている言葉だと考えることが出来ます。
「自然に笑顔が出た」の自然は、笑顔という一時的な動作のあり方を表現していて、「天然温泉」の天然は、その温泉がずっと持っている性質や特徴を表現しています。「一時的なものか永続的なものか」という使い方の区別があると考えることが出来ます。
自然の意味
自然とは
自然とは、人の手が加えられていない物や、意図的ではない動作などのことを意味しています。
表現方法は「自然のもの」「自然に触れる」「自然を感じる」
「自然のもの」「自然に触れる」「自然を感じる」などが、自然を使った一般的な言い回しです。
「大自然を満喫する」の自然は人の手が加えられていない物
自然は世界の中で人の手が加えられていない場所や環境、そのようなところにある物などを指し示す、スケールの大きい言葉です。
例えば、山や森や川などは、そのものズバリ「自然」と言われます。「大自然を満喫する」と言われる時の「自然」とは、山や森などの「人工的ではない物や環境そのもの」のことを指しています。
「自然」という言葉で最初にイメージされるのは、深い森に囲まれた山々や、都市部から離れた河川や湖などの「景色」や「風景」です。これらは自然の類義語と言うことが出来ます。いずれも「人の手が加えられていない」ことを連想させます。
「環境」という言葉は「都市環境」や「生活環境」等のように使われる場合は自然とは切り離して考えられていますが、「環境保護」と言われる場合など、自然とほぼ同一の意味で使われるケースもあります。
他方で、自然の対義語・反対語としては「人工物」や「技術」などがあります。いずれも人の手による物事を意味する言葉です。技術とは、人間が自然に働きかけて何かを作ることで、そうして作り出されたものが人工物です。
以上の説明は「自然という物」にまつわるものでしたが、自然という言葉にはもう一つ、「動作の仕方」を示すという意味があります。
「自然とお腹が鳴った」「自然体で演技する」の自然は動作
例えば「自然とお腹が鳴った」や「自然体で演技する」という言葉は、人間の動作を表現するものです。ここでの自然は「意図的、作為的、人為的ではない」という意味です。このような意味は自然という言葉に含まれる自という字が担っているものです。
自然の自という字は「自ずから」という意味です。これは雑草が放っておくと伸びたり、風鈴が風に揺られて音を出すような光景を連想させる言葉です。「自ずから」とは「外から働きかけられることなく動く」という意味です。
上で説明した森や川などの「自然」は、実は「自ずから動くもの」の代表格です。また「自然体な演技」という言葉も、身体の内側から染み出るような、ぎごちなさのない演技ということで、外からの働きかけがないという意味合いを持っています。
「自ずから」という言葉は、動き方を表現する言葉です。強制されるのではなく自分から進んで物事を行うことを意味する「自発」や、他のものから干渉を受けずに物事を行うことを意味する「自主」などの自も「自ずから」の意味です。
自然の自の字を使った別の言葉としては、束縛されることなく自分自身の意に従うことを意味する「自由」、自分の考えや意志、信念のみに従って決めることを意味する「自決」、説明を加えるまでもなく明らかであることを意味する「自明」などがあります。
どの言葉にも、「外部から働きかけられるのではなく、内側から動く」という意味合いがあることを理解するように努めて下さい。
天然の意味
天然とは
天然とは、「自然界の」という性質を持つ物を意味しています。
表現方法は「天然な人」「天然温泉」「天然ボケ」
「天然な人」「天然温泉」「天然ボケ」などが、天然を使った一般的な言い回しです。
天然の使い方
天然は自然と同じ意味の言葉ですが、使われ方は異なります。
例えば、ずばり森そのもののことを「自然」と表現することは出来ますが、「天然」と表現することは出来ません。出来るのは「天然樹林」や「天然の樹海」のような表現だけです。天然という言葉は、自然と違って対象そのものを指し示す言葉ではありません。
「天然素材」「天然温泉」「天然洞窟」などの言葉を考えればわかるように、「天然」という言葉は、「当該の物が自然界に属している」という意味の言葉で、物の性質を表現しています。
天然は物の性質を表現し、自然には動作の仕方を表現するという用法がありました。言い換えると、「天然」は「持続的なもの」を表現し、自然は一時的なものを表現しています。
例えば「天然記念物」のトキは、トキである限りいつまでも「天然記念物」です。対して「自然な笑顔」は、一時的な表情のことです。
このような意味とは別の使い方として、「どこか間の抜けている人柄」のことを「天然」と呼ぶことがあります。意図した訳ではないのに、結果として笑いになる発言や行動のことを「天然ボケ」と言います。ボケとは漫才などでお笑いの対象となるもののことです。
天然の対義語
天然の対義語・反対語としては、人工的に飼育することを意味する「養殖」、2つ以上のものをまとめて1つにすることを意味する「合成」、自然のものに人間が手を加えることを意味する「人工」、人間が造ったものを意味する「人造」などがあります。
天然の類語
天然の類語・類義語としては、今ある状態の通りであることを意味する「あるがまま」、まだ開発されていないことを意味する「未開発」、まだ開拓されていないことを意味する「未開拓」などがあります。
自然の例文
この言葉がよく使われる場面としては、人間が手を加えていない物事を表現したい時などが挙げられます。自然という言葉で第一に連想されるのは、自然環境や田舎の牧歌的な風景などの「広大な物」です。
そうした物とは、具体的には森や山、河川や草木などで、「自然界」と一括されます。自然界の中には動物も加えられます。
例えば植物の生長などが好例ですが、「自然」という言葉には「外部から働きかけられることなく内部から動く」という意味合いがあります。そうした意味が全面に出ると、例文5の「自然にする」のように、動作の仕方を表現することがあります。
天然の例文
この言葉がよく使われる場面としては、人の手が加えられていないという性質を表現したい時などが挙げられます。天然は自然と意味は同じですが、使い方とニュアンスが異なります。
天然には、対象そのものを指し示す使い方はありません。それに対して、自然には、大きな川を見て「大自然」とつぶやくように、対象そのものを指し示す使い方があります。天然という言葉の用法は、物事の性質を表すことだけです。
また、俗語的な使い方になりますが、どこか間の抜けた人柄のことを「天然」と表現することがあります。例文4のように「あの人は天然」というような形で使われます。