似た意味を持つ「傾倒」(読み方:けいとう)と「心酔」(読み方:しんすい)と「陶酔」(読み方:とうすい)の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どの言葉を使えば日本語として正しい言葉となるのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「傾倒」と「心酔」と「陶酔」という言葉は、心を奪われるという共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使われる傾向があります。
傾倒と心酔と陶酔の違い
傾倒と心酔と陶酔の使い分け方
傾倒と心酔と陶酔の違いを分かりやすく言うと、傾倒は主義や思想に夢中になることを表現する時に使い、心酔は芸術作品に夢中になることを表現する時に使い、陶酔は自分にうっとりすることを表現する時にも使うという違いです。
傾倒と心酔と陶酔の使い方の違い
傾倒という言葉は、「思想家に傾倒する」「諸外国の文化への傾倒」などの使い方で、主義や思想に夢中になることや事柄に興味を持つことを意味します。
心酔という言葉は、「有名な作曲家に心酔する」「独特な言い回しに心酔せざるを得なかった」などの使い方で、簡単な考え方、美術や芸術に関するものに夢中になることを意味します。
陶酔という言葉は、「陶酔感に浸る」「名酒に陶酔する」などの使い方で、何かに酔うことを意味します。対象に心を奪われてうっとりとすることも、自身の作品などに酔うことや酒に酔うことまで含まれる言葉です。
これらのことから、心を奪うものの範囲が広い順に並べると、陶酔>傾倒>心酔となります。
また、傾倒は主義や思想に、心酔は芸術作品に夢中になることを指し、陶酔は、傾倒と心酔と違って自分にも使うことができます。これらが傾倒、心酔、陶酔の明確な違いです。
傾倒の意味
傾倒とは
傾倒とは、ある物事に深く心を引かれて夢中になることを意味しています。また、ある人を心から尊敬し慕うことも意味します。
傾倒という言葉には、かたむき倒れることや、かたむけて倒すことという意味もあります。中身のあるものを傾けることで器から出す、ということから転じて、心情を吐き出すという意味もあります。
心理学における「傾倒」は、興味関心を持ち、対象に積極的に関わることを意味するため、本来の傾倒とは若干異なります。
表現方法は「傾倒する」「傾倒しすぎる」「傾倒してやまない」
傾倒を使った表現として、「傾倒する」「傾倒しすぎる」「傾倒してやまない」などがあります。どちらも非常に夢中になっている状態を表していますが、どの表現も美術作品や音楽作品に対しては使うことが出来ません。
傾倒の使い方
傾倒を使った分かりやすい例としては、「占いに傾倒するあまり数百万円使ってしまった」「彼氏に傾倒しすぎるあまりに趣味がコロコロと変わる」「傾倒してやまないあの俳優のルーツを探る」などがあります。
傾倒の類語
傾倒の類語・類義語としては、ほめたたえることを意味する「讃美」、その人の人格を敬うことを意味する「尊敬」、愛して懐かしみ慕うことを意味する「愛慕」、深く感心して尊敬や尊重の気持ちを抱くことを意味する「感服」などがあります。
傾倒の傾の字を使った別の言葉としては、精神や力を一つのことに集中することを意味する「傾注」、耳を傾けて熱心に聞くことを意味する「傾聴」、物事の大勢や態度が特定の方向に傾くことを意味する「傾向」などがあります。
心酔の意味
心酔とは
心酔とは、ある物事に心を奪われて夢中になることを意味しています。その他にも、ある人を心から慕って尊敬することも意味します。
心酔の読み方
心酔は「しんすい」という読み方をします。「しんよい」などの読み方はしません。心酔の酔には、心を奪われる、熱中するといった意味があります。そのため、心酔という漢字もそのまま、心を奪われる、夢中になるといった意味になります。
表現方法は「心酔する」「心酔した」「心酔させる」
「心酔する」「心酔した」「心酔させる」などが、心酔を使った一般的な言い回しです。
心酔の使い方
心酔を使った分かりやすい例としては、「あのアーティストに心酔する人たちは多い」「この宿で出される季節の素材に心酔した」「商売は顧客を心酔させることが大切だ」などがあります。
心酔の意味を含んだ言葉として「フリーク」があります。ある事柄に対して異常に心酔する者を指す言葉で、日本では「マニア」と同じ意味で使われることも稀にあります。刺青やピアスといったものは自己表現のためのフリークとされています。
心酔の類語
心酔の類語・類義語としては、褒めたたえることを意味する「礼讃」、心から傾倒して敬い尊ぶこと「崇拝」、他人やある物事のために自分の身を犠牲にして尽くすことを意味する「献身」、その事が好きで楽しむことを意味する「愛好」などがあります。
心酔の心の字を使った別の言葉としては、その時の気持ちを意味する「心境」、心の中にある思いや感情を意味する「心情」、細かいところまで心を配ることを意味する「細心」、ある物事に深く心を打ち込むことを意味する「熱心」などがあります。
陶酔の意味
陶酔とは
陶酔とは、心を奪われてうっとりすることを意味しています。その他にも、気持ちよく酔うことも意味します。
陶酔の読み方
陶酔は「とうすい」という読み方をしますが、「とうよい」などの他の読み方はしません。
表現方法は「陶酔する」「陶酔状態」「陶酔感に浸る」
「陶酔する」「陶酔状態」「陶酔感に浸る」などが、陶酔を使った一般的な言い回しです。
陶酔の使い方
陶酔を使った分かりやすい例としては、「あの俳優の名演技に陶酔する」「この選手は過去の栄光が忘れられない陶酔状態が続いている」「陶酔感に浸ることができる景色が広がっている」などがあります。
陶酔を使った言葉として、「自己陶酔」「陶酔境」があります。
「自己陶酔」の意味
一つ目の「自己陶酔」とは、自分自身の言葉や考えなどが優れているとして自分に酔いしれることを意味する言葉です。これの対語・対義語に、自分自身がいやになることを意味する「自己嫌悪」や自分で自分を否定的に評価する「自己批判」があります。
「陶酔境」の意味
二つ目の「陶酔境」(読み方:とうすいきょう)とは、ほどよく酒に酔った時のうっとりとして心地よい感覚を意味する言葉です。酒だけではなく、美しいものや素晴らしいものに触れた時のうっとりとした気持ちも含みます。
陶酔の類語
陶酔の類語・類義語としては、うっとりとよい気持ちになる様子を意味する「陶然」(読み方:とうぜん)があります。
陶酔の陶の字を使った別の言葉としては、心がふさいで晴れないことを意味する「鬱陶」(読み方:うっとう)、徳の力で人を感化し教育することを意味する「薫陶」(読み方:くんとう)などがあります。
傾倒の例文
この言葉がよく使われる場面としては、思想や主義、その人の考え方に夢中になることを意味する時などが挙げられます。
「傾倒」という言葉には、かたむく、かたむけるという意味がありますが、精神や気持ちではなく、物理的にかたむけるという意味で使われることも多くあるため、どの意味で使われているかは文脈で判断する必要があります。
心酔の例文
この言葉がよく使われる場面としては、美術作品や音楽作品に心を奪われて夢中になることを意味する時などが挙げられます。
芸術作品だけではなく、特定の人物にも使うことが出来ますが、その人物の主義や思想を表す言葉と一緒に使うことはできないため、「キリスト教に心酔する」という表現はできません。この場合は「キリスト教に傾倒する」と表します。
陶酔の例文
この言葉がよく使われる場面としては、酒や自分などに酔うことを意味する時などが挙げられます。
例文2の「陶酔感」とは、心地よく酔いしれたような感覚を意味する言葉です。
傾倒と心酔と陶酔どれを使うか迷った場合は、主義や思想に夢中になることを表す場合は「傾倒」を、芸術作品に夢中になることを表す場合は「心酔」を、酒や自分を含めた事柄に酔いしれることを表す場合は「陶酔」を使うと覚えておけば間違いありません。