似た意味を持つ「朴訥」(読み方:ぼくとつ)と「素朴」(読み方:そぼく)の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どっちの言葉を使えば日本語として正しいのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「朴訥」と「素朴」という言葉は、飾り気のないことという共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使われる傾向があります。
朴訥と素朴の違い
朴訥と素朴の意味の違い
朴訥と素朴の違いを分かりやすく言うと、朴訥は口数が少ない様子を表現する時に使い、素朴は口数が少ない様子以外を表現する時に使うという違いです。
素朴は、性格や言動の飾り気のなさだけではなく、人の手をあまり加えないで自然のままである様子や、考え方が単純である様子を意味する場合も使います。
しかし、口数が少ないなど話し方に関する場合のみ朴訥を使うため、「朴訥な話し方」という表現はできますが、「素朴な話し方」という表現はできません。この場合に素朴を使う際には「素朴な人」などに変える必要があります。
一方の朴訥は、口数や話し方以外には人となりや性格に使えるため「朴訥な男性」などのような使い方はできますが、雰囲気などのあいまいな表現には使うことができないため「朴訥な気風」とすることはできません。これらが明確な違いです。
朴訥と素朴の英語表記の違い
朴訥を英語にすると「simple」「modesty」「quiet」となり、例えば「彼は朴訥な人だ」を英語にすると「He was a quiet」となります。
一方、素朴を英語にすると「simple」「unsophisticated」「unaffected」となり、例えば「素朴な庭」を英語にすると「simple garden」となります。
朴訥の意味
朴訥とは
朴訥とは、飾り気がなく口数が少ないことやその様子を意味しています。その他にも、素朴で口ごもりながら話すことも意味します。
表現方法は「朴訥な人」「朴訥な男」「朴訥とした」
「朴訥な人」「朴訥な男」「朴訥とした」などが、朴訥を使った一般的な表現方法です。
「剛毅朴訥仁に近し」の意味
朴訥を使った言葉として、「剛毅朴訥仁に近し」(読み方:ごうきぼくとつじんにちかし)があります。これは、意思が強くて素朴で口数が少ない人物が道徳の理想である仁に最も近いものであることを意味した『論語』の言葉です。
この言葉は四字熟語として「剛毅朴訥」とされることもありますが、どちらの言葉の「剛毅」も豪気や剛気と書くのは誤りですので注意しましょう。
「剛毅朴訥仁に近し」の対語・対義語にあたるのが「巧言令色鮮し仁」(読み方:こうげんれいしょくすくなしじん)という言葉で、愛想を振りまく人には誠実な人間が少なく、人として最も大事な徳である仁の心が欠けているものだということを意味します。
朴訥の類語
朴訥の類語・類義語としては、飾り気がなく素直な様子を意味する「純朴」、雑多なものが混じっていないことや、邪念および私欲がなく気持ちに打算や駆け引きがない様子を意味する「純粋」、誠実でかげひなたのない様子を意味する「実直」などがあります。
朴訥の訥の字を使った別の言葉としては、口ごもりながら話す様子を意味する「訥訥」(読み方:とつとつ)、話し方が滑らかではないことやその様子を意味する「訥弁」などがあります。
素朴の意味
素朴とは
素朴とは、人の性質や言動など素直で飾り気がないことやその様子を意味しています。その他にも、自然のままに近く、あまり手が加えられていないことや、単純で発達していないことも意味します。
表現方法は「素朴な人」「素朴な疑問」「素朴な顔」
「素朴な人」「素朴な疑問」「素朴な顔」「素朴な味」などが、素朴を使った一般的な表現方法です。
素朴を使った言葉として、「素朴実在論」「素朴心理学」「素朴派」があります。
「素朴実在論」の意味
一つ目の「素朴実在論」とは、この世界は自分の眼に見えたまま存在しているという哲学的主張の一つです。私たち人間は自分が目で見たものがそのまま存在すると信じ、見えないものは存在していないと思い込む傾向があります。
例えば、昼間太陽を浴びている木々が青々としている状態であれば、私たちは木の葉が青であると認識します。また、雨上がりの空に虹がかかった場合、私たちは空のその位置に虹があることを認識します。これらが素朴実在論です。
しかし、青々とした木々も夕日に当たることで黄色のような橙色のような葉の色になりますし、後日できる虹も同じ高さ同じ場所にできるわけではなく、さらには虹の色の見え方も若干異なります。
自分が知覚できるものだけが実在し、知覚できないものは実在しないという素朴実在論は、ものの見え方が必ずしも同じではないことから、哲学者らに未熟だと批判されてきました。そこから素朴実在論を改変および改良した考え方がいくつか生まれることとなります。
「素朴心理学」の意味
二つ目の「素朴心理学」とは、自分の心の動きを説明できる自分なりの心への理解を意味する言葉で、学術的および科学的な根拠がある心理学ではありません。
例えば、ネギを首に巻くことで風邪が治るという民間伝承がありますが、そういった話を聞いたから首にネギを巻いているというだけで、その話を信じて行動に移す心理に科学的な根拠はありません。
今日では、風邪を引いたら食事を摂った後に風邪薬を飲んで、十分身体を休めるというやり方が一般的ですが、このように各々が自分にとっての常識にのっとった行動を説明することは、科学的根拠がないため素朴心理学と呼ばれています。
ちなみに、首にネギを巻くと風邪が治るという説は、ネギに含まれるアリシンという成分が喉や鼻から入り込み、風邪のウイルスを除去したり、血流や胃腸の働きを促すとされていますが、普通に食事に取り入れる方が首を冷やさなくてすむなど賛否両論のようです。
「素朴派」の意味
三つ目の「素朴派」とは、19世紀から20世紀にかけて存在した絵画の傾向の一つです。一般的には、画家を職業としない人たちが、正式な美術教育を受けることなく、絵画を制作している場合を意味します。
例えば、農業に従事していたグランマ・モーゼスは75歳になってから農民や田園風景を描きました。明るい色彩や、緻密な描写、空間表現の平坦さなどが特徴として挙げられます。
素朴の類語
素朴の類語・類義語としては、考え方や捉え方が素直であることを意味する「単純」、手短で簡単なことを意味する「簡略」、はっきりしていることやその様子を意味する「明瞭」、心にけがれがなく邪心がない様子を意味する「純情」などがあります。
素朴の素の字を使った別の言葉としては、もとになる材料を意味する「素材」、飾り気がないことを意味する「質素」、手を加えないもともとの性質を意味する「素地」、発色のもとになる物質を意味する「色素」、普段の行いを意味する「素行」などがあります。
朴訥の例文
この言葉がよく使われる場面としては、口数が少なく飾り気がないことを意味する時などが挙げられます。
朴訥には、意思が強く飾り気がない様子を意味する「剛毅朴訥」という四字熟語もあることから、悪い言葉としてはあまり使われません。しかし「訥」という字には、口ごもりながら話すという意味があるため、必ずしも褒めているわけではありません。
話し方は流暢とは言い難いけれども、嘘をつかない信頼できるといった意味合いが込められています。そのため、使う側としては悪く思っているわけではありませんが、使われた側の人からすると複雑な気持ちになるのも事実であるため留意してください。
素朴の例文
この言葉がよく使われる場面としては、飾り気がなくあまり手が加えられていない様子を意味する時などが挙げられます。
一般的に素朴は誉め言葉と共に使われることが多いため、プラスのイメージを与えてくれる言葉のように感じますが、本来はプラスもマイナスもどちらのイメージも持ちません。
他者に対して使うのであれば、「素朴で可愛らしい」のように素朴とあわせて違う表現も一緒に使うようにしましょう。
朴訥と素朴どちらを使うか迷った場合は、口数の少なさと飾り気のなさを表す場合には「朴訥」を、あまり手が加えられていない飾り気のなさを表す場合は「素朴」を使うと覚えておけば間違いありません。