似た意味を持つ「国民」(読み方:こくみん)と「人民」(読み方:じんみん)と「市民」(読み方:しみん)の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。
どの言葉を使えば日本語として正しい言葉となるのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。
「国民」と「人民」と「市民」という言葉は、人という共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使われる傾向があります。
国民と人民と市民の違い
国民と人民と市民の意味の違い
国民と人民と市民の違いを分かりやすく言うと、国民は国籍を持つ人を表現する時に使い、人民は労働者を表現する時に使い、市民は政治的共同体を構成する人を表現する時に使うという違いです。
国民と人民と市民の使い方の違い
国民という言葉は、「政府は国民に協力を呼び掛けている」「国民の声に耳を傾ける」などの使い方で、その国の国籍を持っている人を意味します。
人民という言葉は、「人民戦線に関する講義」「中華人民共和国」などの使い方で、国家や社会を構成している人々を意味します。主に、国家に存在する支配者に対しての被支配者を指す言葉です。
市民という言葉は、「市民革命は過去に何度か行われてきた」「市民のための体育館や講堂を借りることができる」などの使い方で、政治的な共同体を構成する人を意味します。
国民と人民と市民の使い分け方
国民はその国の国籍を持っている人を指しますが、人民や市民は国籍の有無は関係ありません。今日では、国籍を有している人がほとんどであるため、人民や市民は国民の中に含まれていることになります。
市民は参政権を持った共同体の構成員を指しますが、日本では「横浜市民」などの使い方で都道府県に属する市の住民を意味することが多いです。
一方、人民は身分社会における労働者らを指す言葉で、かつてはドイツ語でプロレタリアートと呼ばれていた身分です。このプロレタリアートの対になる概念がブルジョワジーとされています。
ブルジョアジーは市民と訳されることが多いことから、人民と市民は間接的に対になりえますが、実際には人民と市民が対の概念として使われることはなく、そもそも人民という言葉は現在の日本ではほとんど使われていません。
これらが国民、人民、市民の明確な違いです。
国民の意味
国民とは
国民とは、国家を構成しその国の国籍を有する人を意味しています。
国民を使った言葉として、「国民主義」「国民食」があります。
「国民主義」の意味
一つ目の「国民主義」とは、国民の人権や自由を尊重しながら、民主的に国家を形成および発展させようとする思想や運動を指す言葉で、ナショナリズムとも言われています。
もとはフランス革命が起源の考え方とされ、後のナポレオン戦争を通じて拡大、19世紀のウィーン体制の時にヨーロッパ世界全体に広がっていった考え方です。
この考え方により、当時オーストリアの支配下にあったハンガリーやチェコ、ポーランドは独立をして国家形成を画策し、イギリス支配下であるアイルランドの独立運動も動きを見せていました。
「国民食」の意味
二つ目の「国民食」とは、その国で広く親しまれている食材や料理を意味する言葉です。日本では寿司やラーメン、韓国ではキムチ、中国では餃子や焼売、ベトナムではチキンライスやフォーなどが挙げられます。
国民の対義語
国民の対義語・反対語としては、一国の君主を意味する「国王」があります。
国民の類語
国民の類語・類義語としては、すべての国民を意味する「万民」、人民や国民を意味する「赤子」(読み方:せきし)、同じ国土に生まれた人々を意味する「同胞」(読み方:どうほう)、社会の大部分を占める一般の人々を意味する「大衆」などがあります。
人民の意味
人民とは
人民とは、国家や社会を構成している人々を意味しています。中でも、国家の支配者に対して支配されている人を意味します。
人民を使った言葉として、「人民の人民による人民のための政治」「人民憲章」があります。
「人民の人民による人民のための政治」の意味
一つ目の「人民の人民による人民のための政治」とは、アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンによって行われたゲティスバーグでの演説の中の言葉です。
「自由の新しい誕生を迎えさせるために」、「人民の人民による人民のための政治」を絶滅させてはならないという主張を行ったこの演説は、民主主義の精神をよく表したものとして非常に有名です。
「人民憲章」の意味
二つ目の「人民憲章」とは、1838年にイギリスで議会に提出された請願書を指す言葉です。成年男子の普通選挙権や、秘密投票、被選挙資格が財産によって制限されないようにするなど、都市労働者の普通選挙を要求していました。
人民の類語
人民の類語・類義語としては、君主の支配の対象となる人々を意味する「臣民」、人民を草に例えた言葉である「民草」(読み方:たみくさ)、多くの人々を意味する「蒼生」(読み方:そうせい)などがあります。
市民の意味
市民とは
市民とは、政治的な共同体である都市の住民を意味しています。
市民の由来
市民という概念は古代ギリシアで生まれた考え方で、当時市民と呼ばれた人たちは政治に参画する権利があり、兵士として自身が属する共同体の防衛義務を果たしていました。
フランス革命の時の革命歌である、現在のフランス国家『ラ・マルセイエーズ』の歌詞に市民と入っていることから、力を合わせて残虐な王を倒して主権を取り戻した人々が市民であるという認識が今日でもなされています。
「市民感覚」の意味
市民を使った言葉として、「市民感覚」があります。これは、世間一般の人々が持つ感じ方や考え方を指す言葉です。
市民感覚が反映されたものの具体例として裁判員制度が挙げられます。もとは検察官や警察、弁護士や裁判官といった法律家たちだけで刑事裁判の判決が下されていました。
しかし、市民感覚を反映された結論が最高裁判所での審議で変わってしまうこともあり、裁判員の考えが軽視されているという見方もあるようです。
市民の対義語
市民の対義語・反対語としては、絶対的な権力や勢力を持つものを意味する「王様」、軍籍にある人の総称である「軍人」があります。
市民の類語
市民の類語・類義語としては、国政や地方公共団体の公務に参加する権利と義務を持つ人を意味する「公民」、国家や社会を構成している多くの人々を意味する「民衆」、特別な地位や財産などのない普通の人々を意味する「庶民」などがあります。
国民の例文
この言葉がよく使われる場面としては、その国の国籍を持っている人を意味する時などが挙げられます。
例文1の「国民の声」とは、国民の要望や、いわゆる世論を指す言葉です。
例文3「国民的」とは、国民全体に関係する様子を意味する言葉です。
人民の例文
この言葉がよく使われる場面としては、労働者などの被支配者を意味する時などが挙げられます。
例文3の「人民主義」とは、皇帝による専制政治と農奴制を打倒し、共同体のための社会を作るという考え方です。
今日では人民と名前を過去に付けられたもの以外で、人民という言葉をほとんど使うことはありません。
市民の例文
この言葉がよく使われる場面としては、政治的な共同体を構成する人を意味する時などが挙げられます。
日常生活においては、都道府県の中の市という区分に住んでいる住民として使われることがほとんどです。
国民と人民と市民どれを使うか迷った場合は、国籍を持っている人を表す場合は「国民」を、労働者を表す場合は「人民」を、政治的共同体を構成する人を表す場合は「市民」を使うと覚えておけば間違いありません。