【意思】と【意志】と【遺志】の意味の違いと使い方の例文

言葉の使い方の例文

同じ「いし」という読み方、似た意味を持つ「意思」と「意志」と「遺志」の違いを例文を使って分かりやすく解説しているページです。

どの言葉を使えば日本語として正しいのか、迷った方はこのページの使い分け方を参考にしてみてください。

「意思」と「意志」と「遺志」という言葉は、どれも何かをするという気持ちを意味しているという共通点があり、本来の意味は少し違いますが混同して使われる傾向があります。




意思と意志と遺志の違い

意思と意志と遺志の意味の違い

意思と意志と遺志の違いを分かりやすく言うと、意思とは何かをしようとする気持ち、意志とは何かをしようとする強い気持ち、遺志とは亡くなった人の何かをしようとした強い気持ちを意味しているという違いです。

意思と意志と遺志の使い分け方

一つ目の「意思」は「何かをしようとする気持ち」を意味する言葉です。何かをしたいという気持ち、あるいはしたくないという気持ちが意思です。例えば「臓器提供の意思表示」は、脳死判定を受けた時に臓器を提供したいかどうかを示すことです。

二つ目の「意志」は「何かをしようとする強い気持ち」を意味する言葉です。意思との違いは気持ちの強さです。「意志が固い」や「意志が弱い」など、強弱が問題にされる場合には意思よりも意志が使われることが多くなります。

意思では思いの強弱は問題になっていません。「臓器提供の意思表示」の場合、提供するかしないかが問題であって、どの程度強く望んでいたり拒否しているかは度外視されています。

逆に意志という言葉では思いの強弱が大きな問題になっています。話し合った末、相手の意志が固くそれを受け入れるしかない場合には、相手が何を考え、望んでいるかはもはや過去の問題で、それよりもどの程度強く考えているかが問題になっています。

意思は考えている物事や内容に重点のある言葉で、意志は内容よりも気持ちの強弱に重点のある言葉だと考えることが出来ます。

ただし二つの言葉の間に厳密な境界線はなく、例えば「意思を尊重する」「意志を尊重する」などのようにどちらを使うことも出来る場合もあります。

意思という言葉のニュアンスを覚えるよりも、意志のニュアンスを覚えて、それに当てはまらない時には意思を使うというように考えると、少しずつ使い分けが出来るようになります。

三つ目の「遺志」は「亡くなった人の気持ち」を意味する言葉です。遺志の遺の字は「あとにのこす」という意味を持ちます。遺志とは「現世にのこしてきた志」のことです。

この字も意志と同様に、強い気持ちという意味で使われることが多いです。弟子が師匠の遺志を受け継ぐというようなことがあるのは、師匠の気持ちが受け継ぐに値する強いものだったからです。強い気持ちでなければ、誰も受け継ごうとはしません。

「臓器提供の意思表示」の場合も、亡くなった人の気持ちです。しかし提供をするかしないかだけが問題であり、気持ちの強弱が問題にされていないので、遺志ではなく意思という言葉が使われています。

意思の意味

意思とは

意思とは、何かをしようとする気持ちを意味しています。意思は単なる考えではなく、具体的な行動の大元となる考えや気持ちのことです。

表現方法は「意思を持つ」「意思表示を示す」「意思疎通を図る」

「意思を持つ」「意思表示を示す」「意思疎通を図る」などが、意思を使った一般的な言い回しです。「意思が強い」という言い回しは間違いで、正しくは「意志が強い」なので注意しましょう。

意思との使い方

意思は単に頭の中で何かを考えることとは違います。この二つの違いを、学校の宿題をするという例で考えることにします。学校の宿題を解くことは考えることです。それに対して学校の宿題をしよう思うことや、したくないと考えることは意思です。

考えることは、それ自体としては行動とは関係ありません。例えば空想や幻想などは頭の中であれこれと考えることですが、現実の世界とは関係がありません。

反対に、意思は行動と直結しています。今日のお昼ご飯はラーメンにしようか、それともうどんにしようか、と考えることは意思です。

意思という言葉は法律用語として使われることもあります。裁判では故意か過失かが一番の問題になることを考えてみると、なぜ意思が法律用語なのかが分かりやすくなります。

故意とは行為が考えに基づいていることで、過失とは行為が考えに基づかず偶然起きてしまったことを意味します。つまり故意か過失かを問題にするということは、どのような意思だったかを問題にしているのと同じなのです。

意思の類語

意思の類語・類義語としては、何かをしようという考えを意味する「意図」などがあります。意思と意図の使い分け方としては、意思が直接的で意図が間接的、あるいは意思が表面的で意図がその裏にあるもの、というように考えることが出来ます。

例えばラーメンよりもうどんにすると考えることは意思です。考えと行動が直接繋がっています。しかし、うどんにすると考えることの背後には、ダイエットや健康など、裏の思惑があります。この裏の思惑が意図です。

また「臓器提供の意思表示」という例で考えると、提供する意思を示すことの背後には、一人でも多くの人に助かって欲しいという意図があり、提供しないという意思を示すことの背後には、例えば脳死というものを信じられないというような意図があります。

意思の意の字を使った別の言葉としては、自分自身の精神のあり方を意味する「意識」、ある一つの物事に意識を向けることを意味する「注意」などがあります。

意思の思の字を使った別の言葉としては、物事を考えることを意味する「思考」、策を考えることを意味する「思案」などがあります。

意志の意味

意志とは

意志とは、何かをしようとする強い気持ちを意味しています。

表現方法は「意志を持つ」「意志を貫く」「意志が固い」

「意志を持つ」「意志を貫く」「意志が固い」などが、意志を使った一般的な言い回しです。

意志の使い方

意志と意思との違いは気持ちの強度にあります。例えば、健康のために毎日ウォーキングをしようと考えることは、単にそう考えているだけであれば意思、強く心に誓ったことであるならば意志であると考えることが出来ます。

意志には志という字が含まれています。志とはある目標や目的を目指し、その方向に進んでゆくという意味合いの字です。目標や目的へと突き進んでいくというニュアンスが意志にはあり、この点が意志と意思の意味を分けるものだと考えることが出来ます。

目標や目的へと突き進んでいくというニュアンスから、意志という言葉は打たれても挫けない、鋼のような強さを持ったものとしてイメージされることがあります。例えば「意志が固い」や「意志を貫く」などのような慣用表現を思い出してみて下さい。

意志は心理学や哲学で使われることが多い

また意思が法律用語として使われる傾向があるのに対して、意志は心理学や哲学といった人間の心を探求する分野でテーマとなることが多く、そのため多く使われる傾向があります。

伝統的な哲学の分野では、人間の魂には知性、情意、意志の三つの部分があると考えられていました。知性とは物事を理性的・合理的に考える部分で、情意とは感情の部分で、意志とは行為に関わる部分です。

そして人間には自由な行為が可能なのか否かという問題を巡って、自由意志というテーマが現代まで様々な仕方で論じられてきました。意志と自由は切っても切り離せない関係にあるのです。

意志の類語

意志の類語・類義語としては、固く心に決めることを意味する「決意」、自分の思うがままに行動することが出来ることを意味する「自由」などがあります。意志と自由は辞書的な意味では類義語ではないですが、とても深く結びついていることを覚えておきましょう。

意志の対義語

意志の対義語・反対語としては、何かに心が突き動かされることを意味する「衝動」などがあります。

衝動は心の外からの刺激によって心が動くという意味合いの言葉です。それに対して意志は、内部から、完全な自由によって動くという意味合いの言葉です。特に伝統的な倫理学では意志と衝動は対立関係にあるものと見なされる傾向があります。

遺志の意味

遺志とは

遺志とは、遺志とは亡くなった人の何かをしようとした強い気持ちを意味しています。意志と同様に、遺志にも強い気持ちというニュアンスが含まれます。何故かというと、遺志にも志という字が含まれるからです。

表現方法は「遺志を継ぐ」「遺志を引き継ぐ」「故人の遺志」

「遺志を継ぐ」「遺志を引き継ぐ」「故人の遺志」などが、遺志を使った一般的な言い回しです。

遺志の使い方

遺志の遺という字は「死後に残す」という意味を持っています。例えば「遺書」(読み方:いしょ)は自分の考えを死後に残すために書かれるものです。この意味での「のこす」を「遺す」と表記することもありますが、これは遺を常用外の読み方で使っています。

遺志という言葉は、「継ぐ」「引き継ぐ」「受け継ぐ」「報いる」などの言葉と結びつきます。それぞれを厳密に区別することは出来ませんが、おおまかなニュアンスとしては以下のようになります。

「遺志を継ぐ」は故人の志を時間的に延長して継承すること、「遺志を引き継ぐ」は故人が果たせなかった志を果たそうとすること、「遺志を受け継ぐ」は故人が一定は果たした志をさらに勧めること、「遺志に報いる」は志に答えて素晴らしい結果を出すことです。

遺志は亡くなった人の強い気持ち、つまり亡くなった人がこの世界に残していった意志です。注意しなければいけないのは、遺志は亡くなった人の単なる意思ではない、ということです。

「遺志を継ぐ」といったことがあるのは、故人の生前の意志が強かったからです。強くなければ、そもそも誰もそれを継ごうとは考えません。故人の意思の場合には、「故人の意思を尊重する」や「生前の意向に従う」などといった表現が用いられます。

遺志の類語

遺志の類語・類義語としては、残念であることを意味する「遺憾」、病気や怪我から回復した後になお残っている症状を意味する「後遺症」などがあります。

これらの言葉では、遺の字は「後に残る」という意味で使われています。遺憾は残念と全く同じ意味ですが、どちらも言葉の造りは「気持ちが残っている」という形になっていることに注目してみて下さい。「心残り」という言葉もあります。

意思の例文

1.自分の意思を持って話すことが大切だよ。
2.意思疎通とはお互いの意思を交換し合うことだ。
3.彼は自分の意思をはっきりとは示さない人だ。
4.運転免許証の裏面には臓器提供の意思表示ができるドナーカードも兼用されているので今一度確認してみるといい。
5.私は上司から特命を預かり、利害関係をめぐり対立している部署同士の意思疎通を図ることを任された。
6.流行を押し付ける行為をハラスメントとするのは些か疑問で、個々人には自由意思というものがあるのだからそれを尊重すれば良いことだ。

この言葉がよく使われる場面としては、何かをしたいという気持ちを表現したい時などが挙げられます。意思は具体的な行動の支えとなっている考えや気持ちを意味する言葉です。

具体的な行動を引き起こすという点では、意思は「故意」や「動機」といった言葉と近い意味を持っていると考えることが出来ます。故意や動機に近い意味を持つことから、意思は法律用語として使われます。

意志の例文

1.君は自分の意志薄弱さを嘆くけど、その分かえって協調性は抜群じゃないか。
2.「意志あるところに道は開ける」という言葉は、世界中の人々に感銘を与え続けている。
3.意志力という言葉が自己啓発の用語として定着してきている。
4.世の中では皆一様に好き勝手なことをいっているが、それに惑わされずに自分の意志を貫くことはとてもむずかしいように思った。
5.資格の勉強が続かなくても決して意志が弱いなどと自分を責めてはならず、もっといえばすべてを意志に頼りすぎてはいけないのだ。
6.意志あるところに道が出来るとはよくいったもので、人類は様々な困難を意志の力で乗り越えてきたように思う。

この言葉がよく使われる場面としては、何かを成し遂げたいという強い気持ちを表現したい時などが挙げられます。遺志の志という字は、目標や目的に向かって突き進んでゆくという意味を持ちます。「意志を貫く」は突進して障害を破ってゆくイメージの言葉です。

例文2の「遺志あるところに道は開ける」も、意志という言葉の持つ方向性と道のイメージが一つになって出来た言葉です。

例文3の「意志力」は、少し前から自己啓発やメンタルヘルスなどの分野で使われるようになった言葉です。「固い意志」や「意志を貫く」のように、意志という言葉には強さのイメージが重ねられるので、力という字とは親和性が大いにあります。

遺志の例文

1.先生の御遺志を固く胸にし、これから生きてまいろうと思います。
2.早くに亡くなった友人の遺志をやっと果たすことが出来た。
3.故人の遺志を冒とくするような真似はやめたまえ。
4.葬儀につきましては、故人の遺志により、近親者のみで行い、その後関係者などが参加できるお別れ会という形をとりたいと思います。
5.残された私どもが精一杯世の中のために働くことこそ、先生のご遺志を継ぐことになると強く信じています。
6.現在の社長は先代の社長の遺志に背いて、アコギな商売を始めてしまったため、会社の経営は一気に傾いてしまった。

この言葉がよく使われる場面としては、亡くなった人の生前の強い気持ちを表現したい時などが挙げられます。遺志にも意志と同様に志の字が含まれています。そのため遺志も強い気持ちを表現していますが、この強さのニュアンスはしばしば忘れられています。

遺志は単なる意思ではありません。死後もその考えを尊重せねばならないほどに強い気持ちこそが遺志と呼ばれます。強い気持ちでなければ、誰も遺志を受け継いだりはしようとしません。

例文3の「故人の遺志を冒とくする」という表現はよく使われます。冒涜の涜の字は常用漢字ではないので、ここではひらがなで表記しています。

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